Kiyoaki
Tsukahara
- 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野
- 塚原 清彰 主任教授
終わりなき治療の進化を目指して、
未来に続く新たな道を創り続ける。


今日より明日、そして10年後の治療を今より良くするために
私の研究テーマは、頭頸部と呼ばれる脳と目を除く鎖骨から上の部分にできるがんの治療です。手術合併症を減らすための術式開発、薬物療法の新規レジメン開発、高いQOLを維持するための有害事象コントロール、リアルワールドでの効果など、実臨床に関連性の高い研究をしています。
研究というと顕微鏡やフラスコを使用する「基礎研究」のイメージが強いと思います。私たちが行っている「臨床研究」は、日々患者さんに行われている治療を分析・考察する、実臨床と隣り合っている研究です。みなさんもEBM(Evidence-Based Medicine;根拠に基づく医療)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。現代の医療は論文化された臨床研究結果をもとに学会が作成した診療ガイドライン(望ましい治療方法を示す指針)に沿って行うことが推奨されています。診療ガイドラインは定期的に更新されますが、実は発刊の10年程前など過去に開始され、数年以上の時間を要して結果がでた、多くの臨床研究論文結果を検証して書かれています。つまり、「過去の臨床研究」が今の医療を支えているわけです。言い換えると、現在新しい治療を研究している人がいるから、10年後により良い治療、ガイドラインが生まれるわけです。そう考えると、「臨床研究」は未来のための投資であり、臨床試験や治験はタイムマシンに乗って未来の治療を経験していると言えます。
現在、私が研究を進めているのは、レーザー光照射と色素IR700複合薬物を組み合わせた光免疫療法です。アルミノックス治療とも呼ばれるこの方法は、2021年に世界で唯一、日本において頭頸部がんに対してのみ保険適用となりました。がん治療で行われる放射線には限界線量があり、基本的に一部位には生涯1コースしか使うことができません。つまり、放射線治療後の再発に追加放射線は困難です。光免疫療法は放射線後再発の新たな灯です。新規治療の誕生は、患者の命を救うための新たな道ができることに他なりません。未知の治療に不安や抵抗を感じる方もいると思いますが、私は医療だけでなく、全てのことで変化を怖がらず、新たなものにもチャレンジする気持ちが大切だと考えています。

研究の起点は、些細なことでも疑問に思うところにあり
今の治療方法が完璧ではないからこそ、昨日より今日、今日より明日の良い治療を目指して臨床研究を行います。そして常に今の限界を越えることを目指します。そう考えると、明日と今日、今日と昨日、今と10年前が同じ治療ということは退化です。そして、時を重ねるほど退化が進みます。では、未来に向けた治療進化に何が必要かというと、疑問を持つことで、当たり前(今の治療成績や合併症など)を当たり前と思わないことです。まだ経験が浅い若い医師の新鮮な目に映った素朴な疑問に、私がハッと気付かされることもしばしばあります。些細なことであっても、「なぜだろう」と考えて、自分なりに解析し、周囲とディスカッションする、その積み重ねが新たな治療に繋がります。
人の身体も病気も千差万別で、全く同じ症例はありません。推測通り、スムーズに答えに辿り着けることなんて稀で、壁にぶち当たることはしょっちゅうです。むしろ、壁だらけですが、そこに答えが隠れています。そういう時には、一度その壁から距離を置いてみることも必要です。一度離れて、視界が変わることで気づかなかったものが見えたり、新しい発見があるのです。
私の最終目標は、頭頸部癌で亡くなる人がいなくなることですが、罹患した場合でも低侵襲治療でQOLを保てることが次善です。今は治療に関する研究がメインですが、今後は早期発見研究にも力を入れます。その先には罹患予防というテーマも待っています。臨床研究に終わりはありません。

部活動が手術に挑む精神を鍛え、向上心が研究の扉を開いた
学生時代から難しいことをサラリとできる、技術力の高い外科医になりたいと思っていました。医学生の臨床実習で、後に師匠となる先生が頭頸部の手術をしているのを見て、頸の皮膚を展開し、頸動脈が露出してくるダイナミックな手術に心を奪われました。一目ぼれです。それが、耳鼻咽喉科にすすみ、頭頸部腫瘍を専門とすることになったきっかけです。
若い頃は、手術中心の毎日でした。ひとつ終わる度、もっとうまくなるにはどうしたらいいのだろう、患者さんの負担を最小限にするためにもっとスピーディに終えるにはどうしたらよかったのだろう、と考えながら取り組んでいました。縫合に疑問を持った時は、夜中に手術が終わり、残った血管を明け方まで研究室で縫っていたこともあります。大学生時代には研究に携わっていくとは思っていなかったのですが、そういう手技への探究心が私の研究の原点です。そして、症例の疑問・解決策・考察を文章や画像にして、論文にまとめはじめたことが、今取り組んでいる臨床研究に繋がっています。
今の自分に影響を与えているものに、高校時代から続けている合気道と大学ではじめた剣道があります。剣道にいたっては人生で最もうまくいかない、と思うくらい苦戦しますが、今でも時間を見つけて週3‐4回稽古をしています。1時間程度稽古した後、病院に戻って研究できるのでありがたいです。学生時代からこのふたつを経験したことによって、生来せっかちな性分の私が我慢することを覚え、集中することや平常心を保つことも鍛えられました。一見、外科医のスキルとは関係ないように思えますが、そのどれもが手術には必要不可欠です。若い頃から医療以外で経験していたことが、奇遇にも医師としての成長に深く関係しているのですから、人生に無駄な経験などひとつもないということです。
医療は病気をみていますが、向き合っているのは “人”です。がん治療では、病気を治す、小さくする効果があっても、結果として患者さんのQOLを下げてしまうことも少なくありません。そういう時にどうするのが患者さんにとって最善なのかを考え、希望に沿って調整することも医師の役割です。そういう意味では、学生のうちから人との関わりを積極的に持つことが大切です。仲良くするもよし、喧嘩するもよし、人と接していろいろな経験をしておくことが、医師になった時に生きてくると感じています。タイムマシンがあるなら、学生時代の私にもそんなアドバイスを伝えたいですね。








