The Prized Research Assets

東京医科大学
とっておきの研究資産
「細胞からの手紙」が 産学連携を拡大する

落谷孝広氏と黒田雅彦氏
<タイアップ記事(BRAND VOICE)>
Promoted by Forbes JAPAN / Text by Shinya Midori / Photographs by Toru Hiraiwa
落谷孝広氏

落谷孝広

東京医科大学 医学総合研究所 未来医療研究センター 分子細胞治療研究部門特任教授。1988年、大阪大学大学院博士課程修了(医学博士)。米国ラホヤがん研究所(現・SFバーナム医学研究所)ポストドクトラルフェロー、国立がん研究センター研究所分野長を経て現職。日本細胞外小胞学会・理事長を務める。

黒田雅彦氏

黒田雅彦

東京医科大学 医学総合研究所所長。分子病理学分野主任教授。学校法人東京医科大学理事。1993年、東京大学大学院 医学系研究科第3博士課程(医学)修了。New York University, Skirball Instituteへがん遺伝子研究のため留学、慶應義塾大学リサーチパーク黒田プロジェクト研究代表などを経て現職。

髪の毛1本の太さの1,000分の1。「エクソソーム」は今、医薬品開発で最注目の体内物質だ。
まだ見ぬ治療法へのニーズに応えるべく、最先端でタッグを組むふたりの研究者と医療イノベーションへの道。

人間の体内では今この瞬間も、細胞同士が無数の「封筒」を送り合っている。差出人は自身の細胞だけでなく、腸内細菌や食物として取り込まれた植物の場合もある。

この封筒は「エクソソーム」と呼ばれ、直径100ナノメートルに満たないが、なかにRNAやタンパク質などのメッセージ物質を積み、臓器や生物種の境界を越えて移動する。医学総合研究所 未来医療研究センター特任教授の落谷孝広はこれを「生物界共通の通信システム」ととらえる。動物と植物、あるいは動物と細菌がエクソソームを介して「会話」しているというのだ。

だが、善意が運ばれるとは限らない。「エクソソームはかつて細胞が処理しきれない不要物を捨てる『ゴミ袋』と考えられていました。ところが、その中身を解析する技術が進み、がん細胞が自ら移動する前に転移先へエクソソームを『先兵』として送りこんでいることなどがわかってきました」

がんによる死の多くは原発巣ではなく、ほかの臓器へと広がる転移によって引き起こされる。7年連続で高被引用論文著者に選出されるなど、エクソソーム研究で世界のトップを走る落谷が狙うのは、がん細胞そのものを殺すのではなく、この先兵を捕らえる治療だ。転移を抑え、共存しながら寿命を延ばす。抗がん剤とは異なる治療戦略である。

一方、医学総合研究所所長で、分子病理学分野主任教授の黒田雅彦は、植物がつくる小さなカプセルのような構造を「薬の運び手」に変えようとしている。研究対象は、アセロラ由来エクソソーム様ナノ小胞だ。これと薬剤を複合させて口から摂取し、消化管の壁を越えて脳や骨など目的の臓器へ運ぶ。

「日常的に摂取する植物由来のものだからこそ、免疫系をすり抜けられるのではないかと考えています」(黒田)

医療イノベーションの
勝敗を決めるもの

(01)The Prized Research Assets

研究について語る落谷孝広氏

東京医科大学はエクソソーム研究の
中心地になっている

落谷孝広

エクソソームが臓器を横断するように、その研究も学問の境界を越える。医師や生命科学者だけでは、100ナノメートル未満の粒子を正確に見て、測り、制御することはできない。薬学、工学、獣医学、細菌学、植物学、統計学、AIが必要になる。

その異分野を束ねる司令塔が、医学総合研究所の所長も務める黒田だ。落谷は、黒田の専門である病理学が全体のコーディネートや、研究組織の設計にいかされているという。

「病理医は全身のさまざまな疾患を見るため、消化器、呼吸器、脳、骨といった領域を越えて研究者をつなぐことができます。だから黒田先生は、異分野の人たちを集め、ひとつの方向へ導くのが非常に上手なんです」(落谷)

落谷らが所属する「未来医療研究センター」は、企業との共同研究や起業を通じ、医療系スタートアップの難関、非臨床試験という「死の谷」を越えつつある研究を集約し、治験へ運ぶ拠点だ。落谷は、国内外から若手が集まる現状を踏まえ、「東京医科大学はエクソソーム研究の中心地になっている」と語る。

その研究の速度を変えるのがAIである。「アセロラ由来小胞をどう改変すれば目的臓器へ届きやすくなるか、その立体構造や設計の予測にAIを使います。AIが仮説を提示し、人間が実験で確かめる。不要な実験や動物実験を減らし、創薬までの時間が劇的に縮まりつつあります」(黒田)

しかし研究環境を整えるだけでは世界との競争には勝てない。7月に台湾で開催されたアジア最大級の国際バイオテクノロジー展「BIO Asia」に参加した落谷は、エクソソーム関連ベンチャーが林立し、会場を埋める熱気に圧倒されたと語る。「韓国では、設立直後から米国市場を狙う企業を政府が支え、中国でも原料供給、評価、製造、販売を担う企業群がそろい、医薬品開発のエコシステムが整いつつあります」と危機感を露わにする。

競争のルールも変わりつつある。黒田が海外の学会で見た最新のRNA編集技術は、論文より先に企業ブースで発表されていた。「企業は論文化する前に特許を押さえ、メカニズムを秘匿したまま技術を市場へ提示します。最先端の情報は学術誌を待っていても手に入りません。研究者自身が国際学会や展示会へ行き、企業と接点をつくる必要があります」

両氏が恐れるのは、日本の研究力が弱いことではない。むしろ研究では先行しながら、実用化で追い抜かれることだ。エクソソームのルールづくりでも、日本の議論を研究した韓国や台湾が先に制度化し、日本が海外製品を輸入する側へ回る可能性があるという。

「発見の早さだけでなく、特許、製造、規制、治験をひとつの流れにできるかどうかが、医療イノベーションの勝敗を決めます」(黒田)

企業を呼び込む研究資産

(02)The Prized Research Assets

研究と産学連携について語る黒田雅彦氏

研究者自身が企業と接点を
つくる必要があります

黒田雅彦

その巻き返しの舞台となりえるのが、西新宿キャンパスだ。医薬品研究には特殊な廃水処理や封じ込め設備が必要で、普通のオフィスビルをラボへ変えるのは容易ではない。だが東京医大には既存の研究設備があり、そのすぐ隣には大学病院がある。同大は令和6(2024)年度には治験件数で東北大学に次ぐ全国2位となった。充実した治験機能、専門医、患者との近さ、そして都心に位置する環境は、企業を呼び込む強い資産になる。

26年7月には、学内に分散していたURA(大学等リサーチ・アドミニストレーター)機能を統合した。研究費申請、産学連携、共同研究契約、知財、倫理審査をひとつの窓口で支える体制を整えたのだ。病院側には治験や臨床研究を支援する部門があり、今後は大学側の基礎研究支援と病院側の臨床支援を切れ目なく接続する。大学発の研究成果を産業へとつなぐための布石だ。

ふたりは異なる出発点から、エクソソームというひとつの小胞にたどり着いた。

落谷の研究は、飢餓になると仲間を呼び集め、集団で新天地へ移動する細胞性粘菌の観察から始まった。その姿が、栄養の乏しい場所から逃れ、別の臓器へ移るがん細胞と重なった。がん転移、マイクロRNA、エクソソームへと進んだ研究人生の最後には、再び粘菌に戻り、集合を呼びかける信号がエクソソームなのかを確かめたいという。

一方、医師の家系に生まれた黒田は、目の前のひとりだけでなく、創薬によってより多くの患者を救いたいと病理学へ進んだ。原点は、若者を襲い、かつては四肢切断以外に治療の選択肢が乏しかった骨肉腫だった。黒田が見出したアセロラ由来エクソソーム様ナノ小胞は、その骨へ薬を運ぶ道具としても期待されている。

エクソソームは細胞同士をつなぐだけではない。臓器と臓器、医学と工学、基礎研究と臨床、大学と企業、そして研究者の人生をつなぐ。細胞が送り合う「封筒」は、異分野の人材と企業を呼び寄せ、新しい診断法や治療薬を患者へ届けるための、とっておきの研究資産なのだ。