Inverted T-shaped Method

東京医科大学の
「逆T字型教育」
知のマネジメントで 高度医療と地域をつなぐ

宮澤啓介学長と三苫博副学長
<タイアップ記事(BRAND VOICE)>
Promoted by Forbes JAPAN / Text by Shinya Midori / Photographs by Toru Hiraiwa
宮澤啓介

宮澤啓介

東京医科大学学長。1989年、東京医科大学大学院 医学研究科内科学専攻博士課程修了。同大内科学第一講座、生化学講座を経て、2015年副学長。23年に退職し牧野記念病院 在宅診療部部長。24年9月に学長就任。

三苫博

三苫博

東京医科大学副学長・教学マネジメント担当。法人 教学マネジメント統括本部長。1989年、東京医科歯科大学大学院医学研究科修了。三菱化学生命科学研究所研究員、東京医科大学医学教育学分野主任教授を経て24年より現職。

「最新ではなく、最善の医療を」。高度専門医療を実践する都心の医科大学が、 地域の医師不足解消や在宅医療実習を強化する「教育改革」に本腰を入れる。 次世代の意識を確実に変えたメソッドとは。

国家試験のカリスマが
旗を振る

(01) Inverted T-shaped Method

インタビューに答える三苫博副学長

超高齢社会で求められるのは、
全身を包括的に診る総合的な診療能力

三苫博

それは学長が質問に答え終わると同時のことだった。
「実はこんなアイデアがあるんです」
副学長が新しいカリキュラム構想を説明する。

「AI時代に医師に求められるもの」として学長が語った「医学生が自ら課題を見出し解決する力」。それを育てるのであれば……と温めていた腹案を披露する。「いいですね」と学長は笑顔でゴーサインを出す。東京医科大学が進める教育改革。そのスピード感が取材中に垣間見えた。

一に教育、二に教育、三、四がなくて五に教育―。東京医科大学(東京医大)の宮澤啓介が、学長就任時に掲げたこのスローガンは一見、精神論的である。だがその内実は、きわめて戦略的だ。教育、臨床、研究、地域連携、産学連携という大学の知的資源を、社会課題の解決に生かす「マネジメント」の思想があるからだ。

その象徴が、教学マネジメント担当副学長・三苫博の存在である。三苫は、医師国家試験対策をはじめとする医学教育に長年携わり、全国の医学生から高い支持を集めてきた教育者だ。

「三苫先生の講義は知識の詰め込み型ではなく、病態生理から考え、なぜその診断や治療に至るのかを芋づる式に知識を引き出して説明するタイプで、教育の本来あるべき姿でした。そして日本の医学教育を改善したいという高い理念もおもちだった。そこでぜひ本学に来ていただきたいと強く働きかけたのです」(宮澤)

宮澤と三苫は、教育成果を再定義し、PDCAサイクルによって改善を続ける仕組みを整えてきた。

「本学のミッションは『患者とともに歩む医療人を育てる』ことです。思いやりをもって患者さんの人生に寄り添うこと、独りよがりな『最新』ではなく『最善』の医療を提供すること、そして明日の医療を切り拓く研究を通じて次代を担う人材を育てること。この3つを一体として発展させることが、大学の使命だと考えています」(宮澤)

この理念を具体的な教育モデルに落とし込んだのが、三苫の言う「逆T字型教育」である。横棒にあたるのは、すべての医師に必要な総合的診療能力、プライマリケア、プロフェッショナリズム、観察と思索の力。縦棒にあたるのは、高度先進医療、研究、行政、地域医療など、それぞれの専門性だ。

「これまでの医学教育は、早い段階から専門分野という縦棒を細かく教え込みがちでした。しかし、これからの超高齢社会で求められるのは、全身を包括的に診る総合的な診療能力です。その基盤があってこそ、高度な専門性も社会のなかで生きるのです」(三苫)

象徴的なのが、2025年度から第1学年に導入した「地域在宅医療実習」だ。入学直後の学生が訪問診療に同行し、終末期医療、多職種連携、患者の生活背景に触れる。さらに哲学、死生学、生命倫理、患者学を担う人間学教室と接続され、現場で見たものを教室で問い直す。医師として、また基礎研究者として従事した大学を65歳にして離れ、訪問診療の現場に飛び込んだ経験をもつ宮澤肝いりのカリキュラムだった。ちなみに三苫も宮澤と同じく医療、基礎研究の双方の経験をもち、訪問診療に携わったこともある。「問題意識を共有しており、考えていることはだいたい同じ」(宮澤)。だからこそ、教授会での承認を含め、スピード感のある改革が可能なのだ。

宮澤が忘れられない学生の言葉がある。地域在宅医療実習の後の発表会で、ある1年生が「在宅医療は、病気を治す医療と、患者さんが望む生活を支える医療が交差する場所にある」と語ったと言う。

「鳥肌が立ちましたよ。医学の専門知識を学ぶ前の真っさらな時期だからこそ、医療者目線に染まらず、患者さんの生活に寄り添う視点をつかめたのだと思います。この実習を導入した価値があったと確信しました」(宮澤)

「全身を診られる医師は
かっこいい」

(02) Inverted T-shaped Method

インタビューに答える宮澤啓介学長

学生に役割と責任をもたせることが
何より重要です

宮澤啓介

もうひとつの柱が、新潟県で展開する長期滞在型臨床実習、LIC(Longitudinal Integrated Clerkship)である。従来の臨床実習は、診療科を1カ月単位で回るローテーション型が中心だった。学生は疾患や患者の断片には触れられても、ひとりの患者が救急、外来、病棟、在宅へと移っていく全体像を追いにくい。一方、LICでは、学生が地域の基幹病院に12週間滞在し、複数の診療科の実習を並行して行う。外来、救急初療、病棟管理に参加し、主治医の管理下で「ほぼ担当医」に近い役割を担う。深刻な医師不足に悩む新潟県にとっては将来の医師確保につながるメリットもある。

「学生に役割と責任をもたせることが何より重要です。責任を与えられた瞬間に、医師としてのプロフェッショナル・アイデンティティが芽生える。やる気のある学生は、信じられないほどのスピードで伸びます」(宮澤)

その変化もまた学生の言葉に表れた。新潟でのLIC報告会で、ある学生は「全身を包括的に診られる医師はかっこいい」と語った。高度専門医療だけを志向していた学生が、地域の現場で、総合的に診る力の価値を身体で理解した瞬間だった。

「LICの本質は、総合的な診療能力を実際の医療現場で身につけることです。学生は医療チームの一員として貢献できているかという緊張感のなかに置かれます。そのなかで患者さんからの期待に応え感謝される経験をすると、爆発的な成長と自信が生まれます」(三苫)

限界を認識し、
教育資源を拡張する

(03) Inverted T-shaped Method

東京医大は、この取り組みを自大学だけに閉じ込めない。新潟県、地域病院、他大学を結ぶ「広域連携型LIC」コンソーシアム構想を進め、南魚沼市民病院にはサテライトオフィスを設ける。さらに、米国式の臨床研修、指導医と研修医間で徹底的に議論しながら診断および治療方針を決定するPeer Review、先輩が後輩を指導する方式で知られる沖縄県立中部病院とも包括連携協定を結び、教員自身を指導医研修に送り出している。

「大学附属病院は高度先進医療を担っているため、総合的な診療能力を育てる教育には限界があります。だからこそ、外部の優れた医療機関や行政と連携し、教育資源を拡張する必要があります」(三苫)

改革の射程は学部教育の先にも及ぶ。そのひとつが、大学院の「医療課題解決の実践的プラットフォーム」化だ。

「優れた研究シーズがあっても、臨床試験・治験、特許、規制、産学官連携を理解していなければ社会実装には届きません。大学院を、MD、PhD、企業の技術者が同じ土壌で医療課題を発見し、解決していく場に変えたいのです」(宮澤)

医療イノベーションは、研究室のなかだけで生まれるのではない。患者の生活の場や医療現場で問いが生まれ、大学がそれを知的資源として受け止め、教育、研究、産業を通じて社会へ返す。その循環を設計できる大学こそ、次の時代の医療人材育成のハブになる。