Revitalize The Healthcare Workforce

「茨の道は歩ませない」 医療人材ハブへの変革

東京医科大学の大久保ゆかり常務理事と林由起子理事長
<タイアップ記事(BRAND VOICE)>
Promoted by Forbes JAPAN / Text by shinya Midori/ Photographs by Toru Hiraiwa/ Edit by Tomoya Tanimura
大久保ゆかり

大久保ゆかり

学校法人東京医科大学常務理事 名誉教授。皮膚科学分野特任教授、東京医科大学病院アレルギーセンター センター長、東京医科大学医師会 会長も務める。

林由起子

林由起子

学校法人東京医科大学理事長。病態生理学分野主任教授。2018年に同校初の女性学長に就任。25年、理事長就任。

2018年に発覚した医学部入試をめぐる不正問題。東京医科大学にとって、 それは組織文化を問い直す重大な転機となった。 医療界の構造的課題にいかに向き合うべきか。 次代の医療をつくる「知のハブ」を目指して。

目を向けるべき方向が
完全に間違っていた

(01) Revitalize The Healthcare Workforce

インタビューに答える大久保ゆかり常務理事

国内外に開かれた大学を目指し、
意欲のある学生や研究者を呼び込む好循環を

大久保ゆかり

2018年に発覚した東京医科大学の入試不正問題。女子受験生や浪人生を不当に扱った問題の背後には、医師の長時間労働、大学病院の慢性的な人手不足、女性医師が妊娠・出産・育児とキャリア形成を両立しにくい医療現場の旧弊があった。同大の理事長・林由起子は振り返る。

「女性が離職する割合が高かったのは確かです。しかし受験段階で人数を調整するのは間違いです。当時も一般の企業は、女性が働き続けられる職場環境を整備しつつありました。しかし私たちは『閉じた論理』に陥って、社会の変化を十分取り込めていなかったのです」林は事件発覚後まもなく、周囲に請われて同大初の女性学長に就任した。不祥事の直後に組織の舵取りを担うことは、困難を極めるようにも見える。

だが林によれば、むしろ学内の協力は得やすかったと言う。「教職員全体に、この大学を根本から変えなければならないという意志が共有されていたからです。事件が組織文化を見直す契機になりました」その改革の基盤を支えていたのが現在常務理事を務める大久保ゆかり。事件発覚当時、林と大久保は大学のダイバーシティ推進役としてともに未来図を描いていた。だからこそ不正が明るみに出たとき、ふたりは言葉を失ったという。

キャリア継続の
カギは研究力

(02) Revitalize The Healthcare Workforce

インタビューに答える林由起子理事長

研究シーズを魅力的に発信し、
産学連携の厚みを増やしていきたい

林 由起子

大久保は自身が病棟医長として働いていたとき、妊娠したことを伝えると上司から快く思わない発言があった。「『急に抜けられたら困る。代わりに誰がやるんだ』と思われたのでしょう。当時の医療現場でも医師の人数は少なく、妊娠や出産は個人の事情であり、職場全体で受け止めるべきものだという意識は薄かった。厳しい時代でした。今の若い人たちに同じ茨の道を歩いてほしくない」林の学長就任後、同大では従来の取り組みを発展させるかたちで、ダイバーシティ推進体制を刷新した。その中心的な役割を従前より担ってきた大久保は、短時間勤務制度の整備、ベビーシッター利用支援、保育園の新設など、研究や臨床を継続できる環境づくりに取り組んできた。効果的だったのは研究補助者配置制度だという。「本人に代わって実験やデータの整理などを行う人員を割り当てる制度です。女性は妊娠や出産のたびに研究面、臨床面で業績を積む時間を失いがちです。彼女らにとってこの制度は大きな支えになりうる。ただし、制度の対象には男性も含まれます。育児や介護は女性だけの問題ではありません。配偶者も研究者である共働き世帯、看護学科の教員など、幅広く利用できるようにしました」保育園の増加など社会基盤は整えられつつある。

しかし課題は残る。林が危惧しているのは大学の研究力の低下だ。「医師の働き方改革により長時間労働をする医師は減りました。しかし医師の数が増えているわけではないので、短い労働時間のなかでこれまで通りの仕事量をこなさなければなりません。病院として診療をおろそかにはできませんし、教育も手を抜くことはできません。その結果、研究時間が削られてしまうのです。日本の医学研究全体の問題です」特に深刻なのは、若手が研究の面白さを知る前に、研究から遠ざかってしまうことだという。研究の楽しさを知っていれば多少忙しくても自ら時間を見つけて研究を続けるかもしれない。しかし、これから研究を始めようとする若手にとって、最初の一歩を踏みだす負担感は大きい。

慣れない実験、論文の読み込み、研究計画の立案。そこに十分な時間や支援がなければ、研究は「やらなくてもよいもの」として後回しにされる。神経内科学・病態生理学の分野で医学研究を長く続けてきた林自身にとって研究は「楽しくて仕方がない」ものだという。だからこそ、研究の楽しさを知っている人と知らない人の間には、大きな差があると感じている。そこで林が学長時代に立ち上げたのが「自由な学び系科目」だった。そのなかに設けた「リサーチ・コース」では、学生が早い段階から研究室に出入りし、研究に触れることができる。狙いは、研究を義務として押しつけることではない。部活動のような感覚で、「面白そうだからやってみる」と思える入り口をつくることにある。研究は「やらされるもの」ではなく、「面白いから続けるもの」。その体験を学生時代に提供することで、卒業後に大学院へ進み研究者としての道を歩む学生も増え始めているという。

大学を社会へ開き、
つなぐ

(03) Revitalize The Healthcare Workforce

東京医大は今年4月に発表した中期計画「GOALs for 2030」で、目標のひとつとして研究領域での国際化の推進を掲げる。同大には国際的な学会や共同研究で活躍している教職員が少なくない。大久保によれば課題は「発信力の強化」だという。「今後は彼らの実績を可視化し、世界に発信していきます。国内だけでなく海外にも開かれた大学になれば、意欲のある学生や研究者を呼び込む好循環を生み出せます」東京医大の改革は、学内にとどまらない。日本の医療界が抱える最大の課題のひとつが、都市部への医師集中による地域医療の疲弊だ。従来の専攻医制度や研修制度だけでは、医師偏在の解消には限界があった。そのため同大では、学生教育の段階から地域医療への理解を深める取り組みをスタートさせた。

その代表例が広域連携型長期滞在型臨床実習(LIC)だ。学生が実際に地方へ赴き、地域医療の現場に長期間身を置くことで、医療資源が限られた地域の現実を体感する。東京で学び、地域で実践し、社会へ還元する。大学を単なる教育機関ではなく、人材循環のハブとして機能させようという試みだ。一方で、医療の高度化が進む時代だからこそ医療者には「人間をどう見るか」という根本的な力が問われる。近年、東京医科大学は女子美術大学との包括連携協定も締結した。医療とアート。一見遠い分野に思えるが、林は「見えないものを想像する力」や「観察する力」という共通点を見いだす。「医療者に必要なのは、知識や手技だけではありません。

患者の表情や生活背景、言葉にならない不安を読み取る観察力や感性、すなわち人間力も重要です」林は大学が担う医療イノベーションのハブとしての役割も見据える。「病院の現場には新しい医療技術の種となる研究シーズが数多く眠っていますが、研究者は、研究が将来どのような花を咲かせるかをすぐには見通せない。企業は、事業化の可能性が見えなければ参画しにくい。そのギャップを埋めるには、大学が研究シーズを魅力的に発信し、産学連携の厚みを増していく必要があります」東京医大の挑戦は、過去からの再生にとどまらない。医療人材育成の新しいモデルを示し、構造的課題にどう応えていくか。その歩みは、これからの医科大学、そして医療界全体のあり方を問う。